弁理士とは |2022年06月16日
弁理士は、他人の求めに応じ、依頼を受けて、特許、実用新案、意匠、商標、国際出願についての特許庁に対する手続の代理を行う、知的財産の専門職です。
弁理士は、個人や会社などの法人の依頼者から委任を受けて、これらの手続きを行い、あるいは相談を受けて契約やコンサルティング、その他の業務、さらには知的財産に関する紛争処理や侵害訴訟に関する業務を行います。
弁理士の使命と職責
弁理士は、知的財産に関する専門家として、知的財産権の適正な保護及び利用の促進その他の知的財産に係る制度の適正な運用に寄与し、もって経済及び産業の発展に資することを使命とするものです。
知的財産基本法では、「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう、とされています。
また、「知的財産権」とは、特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利をいうとされています。
これらのうち、特許、実用新案、意匠、商標は、合わせて産業財産権(以前は「工業所有権」)といい、経済産業省の外郭官庁である特許庁に対し、出願手続きを行い、審査を経て登録されるもので、これらの権利化が弁理士の主たる業務でした。
現在も主たる業務は権利化業務ですが、度重なる近年の弁理士法改正によって、周辺業務にまで業務範囲が広がっています。
弁理士の業務
弁理士法によれば、弁理士が行う業務は下記の通りです。
本来業務
弁理士は、他人の求めに応じ、下記の業務を行うとされています(弁理士法第4条第1項)。
これらは、弁理士の独占業務です。ただし弁護士が行うことは可能です。
・特許、実用新案、意匠、商標、または国際出願、意匠に係る国際登録出願、商標に係る国際登録出願に関する特許庁における手続
・特許、実用新案、意匠、商標に関する行政不服審査法の規定による審査請求、または裁定に関する経済産業大臣に対する手続についての代理
・これらの手続に係る事項に関する鑑定その他の事務
さらに弁理士は、他人の求めに応じ、次に掲げる事務を行うことができるとされています(弁理士法第4条第2項)。
・関税法に規定する認定手続に関する税関長に対する手続、輸入差止申立て、相手方からの申立てに関する税関長または財務大臣に対する手続についての代理
・特許、実用新案、意匠、商標、回路配置、特定不正競争に関する事件、著作物に関する権利に関する事件の裁判外紛争解決手続であって、これらの事件の裁判外紛争解決手続の業務を公正かつ適確に行うことができると認められる団体として経済産業大臣が指定するものが行うものについての代理
・これらについての相談
・特許権・実用新案権侵害訴訟において意見を記載した書面を提出しようとする者からの内容に関する相談
名称独占業務
弁理士は、これまでに述べた独占業務のほか、弁理士の名称を用いて行うことができる業務とし、他人の求めに応じ、下記の事務を行うことを業とすることができます。
(他の法律において制限されている事項を除きます)
・特許、実用新案、意匠、商標、回路配置、著作物に関する権利、技術上の秘密若しくは技術上のデータの売買契約、通常実施権の許諾に関する契約、その他の契約の締結の代理若しくは媒介、これらに関する相談
・外国の行政官庁またはこれに準ずる機関に対する特許、実用新案、意匠、商標、植物の新品種、地理的表示に関する権利に関する手続に関する資料の作成その他の事務
・発明、考案、意匠、商標、回路配置、植物の新品種、事業活動に有用な技術上の情報(技術上の秘密及び技術上のデータを除く。)、地理的表示の保護に関する相談
・特許、実用新案、意匠、商標、回路配置に関する権利、技術上の秘密、技術上のデータの利用の機会の拡大に資する日本産業規格その他の規格の案の作成への関与、これに関する相談
侵害訴訟関連業務
弁理士は、特許、実用新案、意匠、商標、国際出願、意匠に係る国際登録出願、商標に係る国際登録出願、回路配置、特定不正競争に関する事項について、裁判所において、補佐人として、当事者または訴訟代理人とともに出頭し、陳述又は尋問をすることができます。
弁理士は、特許、実用新案、意匠、商標についての特許庁における審決の取消を求める訴訟に関して、訴訟代理人となることができます。
特定侵害訴訟関連業務
弁理士は、弁理士試験とは別に、特定侵害訴訟代理業務試験に合格し、その旨の付記を受けたときは、特定侵害訴訟に関して、弁護士が同一の依頼者から受任している事件に限り、その訴訟代理人となることができます。
弁理士でない者による業務の禁止
弁理士または弁理士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、下記の業務を行うことが禁止されており(弁理士法第75条)、刑事罰などもあります。
・特許、実用新案、意匠、商標、国際出願、意匠に係る国際登録出願、商標に係る国際登録出願に関する特許庁における手続
・特許、実用新案、意匠、商標に関する行政不服審査法の規定による審査請求、裁定に関する経済産業大臣に対する手続についての代理(特許料の納付手続についての代理、特許原簿への登録の申請手続についての代理その他の政令で定めるものを除く。)
・これらの手続に係る事項に関する鑑定
・政令で定める書類や電磁的記録の作成
名称独占
弁理士または弁理士法人でない者は、「弁理士」、「特許事務所」、またはこれらに類似する名称を用いてはなりません(弁理士法第76条)。
弁理士法人でない者は、「弁理士法人」またはこれに類似する名称を用いてはなりません。
日本弁理士会でない団体は、「日本弁理士会」またはこれに類似する名称を用いてはなりません。
弁理士は、日本弁理士会に登録される
弁理士試験に合格した人など、弁理士となる資格を有する者が弁理士となるには、日本弁理士会に備える弁理士登録簿に、氏名、生年月日、事務所の所在地等の事項の登録を受ける必要があります。
弁理士登録簿の登録は、日本弁理士会が行います。
日本弁理士会とは
日本弁理士会は、弁理士法の定めるところにより、全国を通じて一つ、設立された法人です。
弁理士、弁理士法人の使命と職責に鑑み、その品位を保持し、弁理士・弁理士法人の業務の改善進歩を図るため、会員の指導、連絡、監督に関する事務を行い、弁理士の登録に関する事務を行うことを目的としています。
日本弁理士会では、会員の種別及びその権利義務に関する規定、会議や支部に関する規定、会員の品位保持や研修に関する規定などを定め、主として弁理士が納める会費により運営されています。
弁理士の義務
弁理士は、弁理士の信用または品位を害するような行為をしてはなりません(弁理士法第29条)。
このため、弁理士倫理、日本弁理士会会則などに、詳細な規定が設けられています。
また、弁理士または弁理士であった者は、正当な理由がなく、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはなりません(弁理士法第30条)。
使用人その他の従業者またはこれらの者であった者についても同様です。
また、弁理士は、
・相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
・相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの
・受任している事件の相手方からの依頼による他の事件
など、一定の場合にはその業務を行うことができません。
弁理士は、経済産業省令で定めるところにより、日本弁理士会が行う資質の向上を図るための研修を受けなければなりません。
弁理士になるには
次のいずれかに該当する者が、所定の実務修習を修了したときに、弁理士となる資格を有することとなります。
1 弁理士試験に合格した者
2 弁護士となる資格を有する者
3 特許庁において審判官または審査官として、審判または審査の事務に従事した期間が通算して7年以上になる者
弁理士になるには
弁理士となるためには、上記の方法のうち、一般的には弁理士試験を受けて合格するということになります。
弁理士試験は、弁理士となろうとする者に必要な学識と、その応用能力を有するかどうかを判定することを目的として、毎年1回行われています。
短答式(択一式を含む)私権と、及び論文式による筆記私権、口述試験により行われます。
短答式試験
短答式による試験は、次に掲げる科目について行われます。
1 特許、実用新案、意匠、商標(工業所有権)に関する法令
2 工業所有権に関する条約
3 弁理士の業務を行うのに必要な法令であって、経済産業省令で定めるもの
論文式試験
論文式による試験は、短答式による試験に合格した者につき、次に掲げる科目について行われます。
1 工業所有権に関する法令
2 経済産業省令で定める技術または法律に関する科目のうち、受験者のあらかじめ選択する一科目
口述試験
口述試験は、筆記試験に合格した者につき、工業所有権に関する法令について行われます。
なお、短答式試験、論文式試験については一定の場合に免除される場合があります。
実務修習
実務修習は、弁理士試験合格者等が、弁理士となるのに必要な技能と、高等の専門的応用能力を修得させるため、経済産業大臣が行うものです。
実務修習は、毎年1回以上行うこととされ、弁理士の業務に関する法令及び実務について、実務に通算して7年以上従事した経験を有する弁理士が実務修習の講師及び指導者となって行われます。
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■このページの著者:金原 正道