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士業で独立開業を考えるタイミングと、ポイント |2022年06月20日

弁護士、司法書士、行政書士、税理士、社会保険労務士など、いわゆる士業の資格を取得すると、一度は独立開業の可能性を考えることと思います。
独立して事業主となることができる資格なので、資格試験の勉強をするときから、将来の独立を考える人も多いことでしょう。

しかし、事務所の経営、運営は、よほどの幸運にでも恵まれない限り、普通は簡単ではありません。
集客、顧客獲得方法と、実務を覚えることが、一番のポイントとなります。
事務所の収支、経営を直接左右する要因だからです。

また、つい後回しになってしまいがちですが、経理、案件の管理、その他事務所運営上の庶務や雑務の体制を整えることが、意外に重要です。

筆者の独立開業の体験

筆者は、弁理士として、2000年5月に開業をしました。
弁理士資格を取得したのは1998年で、その頃は特許事務所に勤務していました。
弁理士試験に合格した直後に、ウェブサイトを作りました。
少し前まで受験生であったため、試験科目であった特許、実用新案、意匠、商標など、法律別にカテゴリーを設けて、それぞれの制度を説明するページを作りました。

サイトを作成したときは、未だ独立を意識していたわけではありませんが、サイトの内容は、弁理士の業務メニューともなるものなので、後々の開業後のウェブサイトの原型になりました。
試験勉強によって知識も、書く力もある時期なので、資格を取得したらまず、独立するしないにかかわらず、ウェブサイトを作成することはお勧めできると思います。

当時はまだ、ウェブサイトも少なく、あっても名刺代わりの数ページのサイトが多かったため、簡単に検索で上位に出るようになりました。
また異業種交流会、ベンチャー交流会などに参加して、将来の顧客となる知り合いも多くできました。

その流れで、仕事の獲得ができると判断し、独立開業をすることとなったわけですが、2000年当時はネットベンチャーブーム、ビジネスモデル特許ブームのような状態があったので、幸運な流れにのっていたと思います。

逆に不利であった点は、私は文系出身なので、特許など技術的なことには経験も知識もまだまだ足りず、それでもそのことは自覚していたので、情報処理技術の勉強などをずっとしていました。

一方、有利であった点としては、勤務していた特許事務所では、請求書の発行や、案件管理、パソコン導入時の業務など、事務的、また設備・備品管理的なことにまでタッチしていたため、それが事務所運営の知識に直結しています。

したがって、士業の独立開業のポイントは、下記の3点といえます。

1 集客・顧客獲得&維持

2 実務の知識・経験の習得

3 事務所運営・経営の知識・スキルの習熟

加えて、事務所の維持、運営を継続していくためには、

4 収支の早期黒字化、利益計上の継続

が絶対的に必要となります。
これらのことをすべて検討し、士業者でも一般の企業と同様に新規事業計画をたて、できる限り必要な準備をしておかなければなりません。

2 実務の知識・経験の習得

独立開業を検討するにあたっては、士業者も、まずは実務の知識と、経験の習得をしなければなりません。
いくら集客し、顧客を獲得できたとしても、実務ができなければ行き詰ってしまったり、重大な失敗をしてしまうことになりかねません。

実務を習得するためには、独立開業する前に、実際に実務経験を積むことが一番の早道です。

筆者の場合には、資格取得前も含めて、約3年間の実務を経験しました。
もっとも、その士業者が取り扱えるすべての実務を経験したわけではありません。
具体的には、弁理士事務所に勤務して、商標の実務と、特許事務を行っていましたが、弁理士のメインの仕事である特許の実務を行っていたわけではありません。
先輩弁理士や、補助者である技術者の仕事を間近に見ることで、吸収しようとするのがせいいっぱいでした。

業界未経験の場合

そもそも、士業の業界未経験の場合には、顧客の獲得見込み以前に、実務の知識や経験がありません。
いったんは、先輩士業者が経営する事務所に勤務するか、法務・知財など関連する部署への会社勤務を経ることが望ましいと思います。

弁護士であれば法律事務所や企業法務部、弁理士であれば特許事務所や企業知財部などです。

司法書士であれば司法書士事務所や企業法務部、行政書士であれば行政書士事務所や企業法務部などが候補となりますが、ただし特に、行政書士事務所の就職という求人は大都市の一部事務所のほかはあまりありません。
ただ、これらの場合にも、弁護士事務所など他士業者の事務職などを経験し、仕事のスキルや知識、人脈などを築いて行くことはある程度は可能です。

業界の事務所勤務者の場合

それぞれの士業の事務所に勤務をしていて、独立開業を考えた場合には、一通りの実務を習得するのが好ましいといえます。
実務を習得してようやく、集客方法、顧客獲得方法を具体的に考えることができる状況となります。

とはいえ、顧客獲得などのタイミングで、実務を習得している途上であっても、独立するなら今がチャンスと思える場合がありえます。
たとえば、異業種交流会などで顧客となる取引先が見つかったとか、起業ブームがあって今なら新規顧客を多く獲得できそうといったケースなどもあります。

会社勤めの場合

会社に勤務している場合には、士業の実務に関連のある部署であることもあります。
たとえば、法務部で働いていた時に司法試験に合格したとか、不動産会社勤務で司法書士、知財部勤務で弁理士といったケースです。

依頼者と、士業者という立場の違いはありますが、実際に実務に携わることができる勤務先の経験が一定期間ある場合には、その経験を生かすことが可能です。
ただし、好ましくは、こうした場合でも士業事務所での経験はあった方がいいものです。
士業事務所の経営や、顧客獲得&維持の方法を実体験で学ぶことや、士業団体などの人とのつながりは、会社勤務だけでは経験できないと思われるからです。

独立開業に至るまでの道はひとそれぞれですし、必ずしも士業事務所での勤務経験が必須とまではいえません。
十分に検討を重ねることが大切です。

1 集客・顧客獲得&維持

開業を考えたら、どのように集客し、顧客を獲得していくかの方策を検討しておく必要があります。
その方策は、一つの方法に頼るのでは不安定となりかねず、複数の方法を用意しておきましょう。

また、単なる計画ではなく、具体的にいくつかの顧客となる見込みのある相手先を確保しておくことが、目安となります。
実際に計画通りになるとはとても考えにくいからです。

一般的に、勤務している事務所の顧客を横取りするようなことはできないと考えた方がよいでしょう。

集客方法としては、勤務していた間にできた人脈や、異業種交流会、ベンチャー交流会、ウェブサイトヤSNSによる集客、士業者団体や地方公共団体などによる相談会、同業者・異業種の士業者からの照会、セミナーや書籍・電子書籍などによる集客ほかが考えられます。

また、士業者が登録できるウェブサイトや、単価は安くなりがちなもののクラウドソーシング案件のサイトなども、特に開業したての頃には有効です。

業界未経験で独立開業する場合には、けっこう無謀です。
やむを得ぬ方策として、リモートワークで食べていける程度のスキルのある副業をしながら、という方法もなくはありません。

3 事務所運営・経営の知識・スキルの習熟

実務と集客以外にも、事務所の運営においては、学ばなければならないことがたくさんあります。

仕事の案件を受注してから、請求が発生し、売掛金を回収するサイクルの中で、どのような事務処理や、書類が必要か。
たとえば、料金表、見積書、経理ソフトの電子帳簿、送付状、その他のさまざまな業務の流れを、自分で把握し、準備し、開業後にはスムーズに運営できるようにしなければなりません。

確定申告や税金、損益など財務の知識も必要になります。

経理ソフトを選ぶだけでも、たとえば士業者にかかる源泉徴収に対応したソフトの選択など、よく吟味する必要があります。
このほか、士業の業種によって、必要なソフトや、電子証明書なども必要であることが多いものです。
弁理士であれば、案件管理ソフト、インターネット出願ソフトの他、図面を作成するソフト、紙の書類を電子化するソフトなどを扱う必要性があると思います。

士業の毎月の会費、備品管理と調達先、事務所を借りる場合の家賃や備品、士業者向けの賠償保険、電話やウェブサイトの手配など、やることをリスト化し、収支をシミュレーションし、経営の体制を構築しなければなりません。

4 収支の早期黒字化、利益計上の継続

収支を見積もって、損益分岐点と、自分の生活費や税金等も勘案したうえで、月々、そして年間イクラの利益が生み出せればいいのか、そのためには案件をどのくらい獲得し、こなす必要があるのかを、十分すぎるほどにシミュレーションしましょう。

売上や利益が見込み額に届かない場合には、それをどうやって補い、事務所を維持し続けるのかも含め、考えておかなければなりません。

開業当初はしばらくの間、赤字であったという士業者もよくいます。
その間の蓄えがあればよいとは思うものの、できれば初期から黒字化できる見込みの計画ができれば万全です。
そうはいっても計画通りに行くほど簡単ではありません。

仕事に波があることは珍しくありませんが、まずは黒字定着と、最低限の生活費を稼ぎながら、仕事の幅を広げ、スキルや実務経験を増やしていくところから、士業の経営がスタートします。


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■このページの著者:金原 正道

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